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● 鈴木大介ギターエッセイ パート55(2005年2月10日号)

パリから元気に帰国した大介さん、パリリポートです。スケジュールが合えば管理人も一緒に行ける所だったのに・・・(;_;)
ところで2月18日13時よりNHK「スタジオパーク」に大介さんが生出演、チェックお忘れなく!!

みなさん、こんばんは。フランスから帰ってきました。
久しぶりのパリは、以前よりもっと国際色豊かな感じでした。10年ぶりくらいだと思います。みんな外国人慣れしています。さすがですね。最近はみんな英語をしゃべってくれます。EUの中心のひとつでもありますし、開かれた経済都市の雰囲気が、観光客のような僕みたいな訪問者にとっては、心地よかったです。

さて、ベルリンに続いてシャトレ座でも公演となった「My Way Of Life」です。

http://www.kajimotomusic.com/concert/2005/takemitsu/

このシアターピースは、武満さんの音楽を、サイトウキネン・フェスティバルの「ヴォツェック」の公演で演出をしていた、ペーター・ムスバッハが、劇場作品に発展させたものです。演奏解釈のひとつの形として、視覚的な表現を伴ったもの、と言ってもよいでしょう。武満さんの音楽が我々に提示するもののひとつである、生や、死との対峙を、一人の女性(もっとも、女性というのは生きている全存在の象徴として現れるだけなのですが)になぞらえて表現しています。冒頭、その女性の人生の三つの場面、若年、壮年、そして老年の姿が、舞台上に併置されます。見ている僕たちは、人生の三つの段階を、順を追ってではなく、ひとつの画面に見ることで、時間の感覚を失ってゆきます。人生の一瞬は、完結するときにほんとうの意味を明らかにする、とも、人生の一瞬こそがすべての生涯に広がってゆくものである、ともいえるように、瞬間と永遠には密接なつながりがあります。ムスバッハは「ヴォツェック」の時に、自らが人形浄瑠璃などの日本文化から感じた日本的な美質について語っていましたが、「My Way Of Life」に見られる感覚は、日本的でもあり、同時に一人のドイツ人のフィルターを通した日本のようでもあります。しかし、ステージは僕らが思いめぐらす様々なことについて、明確な回答をしないまま進行して行き、

超越的な「個の存在」としての登場人物が、テーマとなっている「My Way Of Life」を歌って消えてゆきます。

 

この舞台は、知るもの、とか見るものとか、理解するもの、というのではなくて、体験されることを望んで作られています。僕には劇中のテディ・ベアが「童心」の象徴に感じられ、ヨーロッパでは我々の想像以上に「日本」という文化の象徴である「アニメ」の世界から飛び出してきたような衣装を身に着けたダンサーたちは、その中心の歌い手がふりまく妖艶さや色香の具象化であるように思われますが、それらは僕の個人的な体験でしかありません。

だからといって、この舞台は、わかりにくくはありません。非常に直接に私たちの好奇心をとらえます。ただし、そこに起きたことを、万人に共通な価値観で、ひとことで言い切ってしまうことを、見事に否定、あるいは拒絶するものです。ひとつのことにひとつの共有できる意味を見いだす、そのことによって得られる安心感に頼って生きている、とくに日本人の僕たちには、ある程度の戸惑いを感じさせるものでもあります。

 

ペーター・ムスバッハが、ベルリン公演の後の質疑応答の時間に、語った言葉が、僕にはとても意味のあるヒントのように思われます。「武満さんのように、自分に感動を与えたものに正直であること、その生き方は、ドイツ人である私たちの今に、とても重要なことなのです。」

彼にとっては、ドイツという国が20世紀に背負った重荷と、そのことへのクリーンな対応の裏側に、未だ乗り越え得ない自我への執着があり、それとの戦いが、ほんとうの自分たちの未来であるかのようでした。。もちろん、これは僕の印象ですが。。

 

武満徹さん、という、西洋音楽のなかで日本が生んだ天才の作品を、ムスバッハという西洋でもっとも先端をいく演出家が解釈する、ということは、歴史上でもたいへん稀で、新しく、そして今後の扉をひらく作業です。その初めての瞬間が、4月に日本にも上陸します。みなさんにも、是非、見ていただきたいと思います。ベルリンとパリでは、微妙に演出が異なっていましたから、今度の日本公演でも新しい演出がされる部分があるでしょう。とても楽しみです。

 

 

パリでは、僕は相変わらずの美術館三昧、それから、今回はホテルにキッチンが付いてましたので、スーパーで種々の食材の素晴らしさに目を見張っては、つたない料理に熱中しておりました。トマトだけは日本の方がおいしいと思いましたが。。

スーパーでお買い物

パリの料理

オルセーのレストラン

オルセーのカフェ(カプチーノ美味しそう!by管理人)

 

そして日本に帰って、翌日大阪へ。大阪では古部さんと僕のために猿谷さんが書いてくださったコンチェルト「音の風韻2」を山下一史さん指揮大阪シンフォニカーと初演しました。猿谷さんの作品はいつも、かっこ良くて、少しだけ寂しくて、でも、その後ろに垣間見えるゴージャス感、(わかるかな~?)が、とても素敵なのですが、今回はそれに加え、オーケストラの表現力が最大限に生かされていて、とてもきれいな曲でした。今後ももっともっと演奏して行きたい作品です。

大阪でコンサート後、猿谷さん、古部さんと。武満眞樹さん撮影