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♦ 第36回


第35回のつづき

 


ま ギターは普通には3ヶ所身体に触れて構えるよね、胸があるから4ヶ所か。

 そこいくとヴァイオリンはあごと肩で挟むけど、挟む所がうまい具合に宙に

 浮くようにできているんだよね。ギターも表面や裏は一部を押さえている

 よね、横板はほとんど押さえる訳だけど、それにしても色々な構造で宙に

 浮かせて弾いたらギターはどの程度鳴るのかね。スモールマンには横板が

 二重構造になっているのあるよね。ほかにもオーストラリアのは多いよね。

 あれの効果はあるの?

 

な あれはちょっと分からないですけど、ギターレストを使うのと使わない

 のとでは音は違います。

 

さ 明らかに違いますね。足台で使うのと、枕で使うのと、枕は一番音を吸収しますね。大ちゃんはギターレストを使っているのは、あれが一番分かりやすいのです。ただ低音域の重量感は少し減りますけどね。足台で弾くより。

 

な 何となく、足台でやっている方がちょっと僕のイメージでは高い倍音が減る感じ。音の重心が少し下がる感じ。ちょっとしっとり…割りにギターレストでやってしまうとハスキーな感じはでますね。フワッとした感じ。

 

さ 明らかに変わりますよね。

 

ま 僕はあれにはなんだか抵抗があってねえ。

 

さ 医療器具的な?

 

ま それはある。それとあれを付けた状態で楽器を持ってくるじゃない、

 チューナー付けて出てくるのとどっちがいいかというと…

 どっちもどっちだなあ。

 

な エンドピンの人もいますね。

 

さ ガルブレイスがチェロみたいにエンドピンつけて弾いてます。

 

ま エンドピンを伝わって床が鳴るとか…

どこの国だったかヴァイオリンを縦に弾く国もあるよ。膝の上に乗せて弾く。ある意味、ヴァイオリン式の方が不自然なんじゃないかなあ? 

左手はかなり捻るもの。

ところで、何か固定して表面だけを変えるとかそういうことしたらどうなるのかな。

 

さ 材?

 

ま そう、周りの材料・構造を全部固定して表面だけを変えたらどうなるかとか、そういう実験をやっている人もあるかも知れないけど。

 

な ネットでそういうのも見た事ありますけど。でも、音源アップしてくれているのですが、不明瞭で。

 

ま まあ、ネットじゃしょうがないね。

 

さ 昔トーレスがボール紙でやったり。ヌーニェスだっけ、金属の、あれもう50年以上前の話。あれは後ろだけですよね。

 

ま 後ろでしかも二重じゃなかった?裏側にF字溝があって。

 裏が二重になっていた様な気がする。

 

さ あれは別でしょう。

 

ま そうか。

 

さ あれはあれでまた別の実験だったかな。

 

ま 二重底ってカマラとかさ、やってるよね。どうやって修理するんだろうね。

 

さ 一度、取ってくれと相談があった(笑)

 

ま カマラを買って二重底を取るくらいなら最初から選ばなければいいのに(笑) 他の物が売ってないならとにかく。

 

さ 結局あのアルミのはそこまでだったですね。

 

ま その後あんまり聞かないね。

 

さ あれ以降、そういうのはないですね。

 

ま その頃だから普通にハカランダなんかあっただろうし。だから代用品という考え方ではないよね。新素材でいい物作ろうと思ったんだろうね。金属というのは均一材料だし、音の伝達スピードも速い。そういう意味では全部速くなる。天然の木を使うと中に色々むらがあるわけでしょう、振動に。…ただそのムラが倍音を作る訳で、やっぱり弦楽器というのは木の音なんだよね。

 

な チェロとか。

 

ま そう、チェロとかヴァイオリンの音っていうのはいかにも木の音。

 

な ギターに関わって何という事をと思いますけど、やっぱりチェロの音っていいなと思いますね。

 

ま あれは擦弦楽器だからね。擦弦楽器のうらやましいのは、音を出したらそれきりでないところ、途中から膨らます事ができる。ピアノではじまってフォルテで終わる事ができる。

 

さ 一音でね。

 

ま ギターはポンと鳴ったらそれっきりだからね。ギターも横や裏板が鳴ってるなと感じる楽器はあるね。弾いていてね。聴いてどうかは分からないけど。弾いていてお腹に来る感じがする。でも弾いている人は上にいるのだから、自分の耳が、前にいて聴いている人よりも横や裏の音を聴いているのだと思う。

 

な 今日バルベロ288年、81年、あの2本の鳴り方はそういう意味では違う所からという感じがする。

 

さ 同じ人が作っていても。

 

な そう、同じ様な構造でも。スモールマンなんかは明らかに違いますけど。

 

ま あとバルベロだったら年数も経っているでしょう。あ、80年代か…今から作る人が新しい構造やれるのはアプローチとしてあると思うけど、弾く人が選ぶのだったら、古い楽器を選ぶという選択肢がかなりあるんだよね。新品を選ばないで。今いい楽器がたくさんあるのだもの。で、ある程度結果が出ているし。

 

な 試されてね。

 

ま 即戦力の楽器があるわけだから。ギターは昔いわれていたよりは長持ちするという事も分かったし。100年は大丈夫だよね。ちゃんと使っていれば。

 

さ ええ。

 

ま そこで新しい試みをした楽器が今から50年後に何ていわれるか分からない。

 

さ 今の新しいシステムのって、意外とできて直ぐ即戦力な物を目指していますね。前とは違う。

 

な 逆に云うと、今がMAX

 

さ 最初からMAX、立ち上がりとしてはね、すぐ使えて。

 

ま ピアノは普通新品がいいと思われているよね。

 

さ そうなんですか?ピアノって。

 

ま 普通そういわれているみたいよ。でもねうちに来る調律師から聞いたのだけど、そのひとは古いピアノを集めてというか買って手を入れて直して使うのが好きでね、やっぱり古いのはいいのだって。機構的にガタが来ているけれど、そこは調律師だから直して使う。戦前のスタインウェイなんていい音がするのだってさ。

 

さ さっきのギターの話だと、ピアノって新しいのがいいといわれるけど逆の話があるんですね。

 

ま そこで、ピアノって新しい方がいいんじゃないんですかと尋ねたら、いや、そうじゃないのですよ、って言われた。

 ピアノは、一番大事な表面板はスプルースなんだ。構造はそっくりだよ、ギターと。裏に力木があって真ん中辺に丸い穴が空いている。たしか力木もフィンじゃなかったかな? 平行ではなかったと思うけど。

 

さ それもシステムがあるのかな。メーカーによって。

 

な あると思いますよ。

 

さ 配置がね。

 

な がっちりとフレームを作ったのが…

 

ま そう、あれがピアノがピアノになった所以でしょう。金属フレームに弦を張る。で、周りの枠はそれを設置するだけで弦のテンションはかかっていない。あれ全部で何トンかになるらしい。何トンも掛けられるから強い音が出る。でも張力はそのフレームが受けて枠にも表面板にもかからない。表面板には駒の圧力しかかかっていない。ハンマーで叩くっていうのは、考えた人はすごく偉くて、バネも動力も使っていない。あれ重力なんだよね。鍵盤を叩いた途端に何かが外れて重さでポンと当たる。戻すとその重さで戻る。重りがあってその重りでキーの重さを変える様になっている。キーが使っている内に磨り減って高さが不揃いになったりするとね、それを埋めるのに薄い紙を挟んだりする。そこはギターの駒の下に何か挟むのに似ている。専用の丸い穴の空いた紙を何種類かの厚さで用意してある。

 

さ ギターの修理の跡で、よく紙が、サンドペーパーなんかが貼ってあるでしょう。

 

な ありますねえ。昔修理のマニュアルみたいな物があったのでしょうか。

 

ま 紙で塞ぐのもそうだけど、リュートの裏で細長い地球儀みたいに貼ってあるやつ、あれの裏側に布貼ってるのも見たことある、あの隙間の所。そういう補強方法があったのだろうね。紙なんて補強にもならないと思うけどね。サンドペーパーなんて何の冗談かと思った。

 

な 穴を塞ぐというならね。いいでしょうけど。強度とかそういう…圧縮とか考えると。

 

さ ものすごく劣化するでしょ、紙だから。ポロポロになっちゃうよね。

 

な 膠というか樹脂で固めてしまうと。ある程度の強度は出ますね。土塀に藁をまぜるとか。

 

ま じゃ、紙は膠を貼るための土台という位置付けなのかなあ。膠に厚さをもたせるための、膠を吸い込ませる素材。

 

さ 今のそういうのって、やっぱり膠は膠なんだ。接着剤というか。

 

な ただ昔と違って、使うポイントは限定されて来ています。オール膠という人はまず少ないと思います。いるかも知れないけど少数派だと思います。

 

さ そういう所を、接着剤とかそういう物も新しくなってきてないのかな、と。

 

な ダブルトップは接着剤が進化したとかそういう事はあると思いますが。

 

さ ダブルトップって、あれ考えたのはワグナーでしょう? だからダマンが有名だけど、それを使うという発想によくなったよね。

 

ま オベーションのファイバーのギターね、あれはもう30年以上前からあるよね。あれは横裏を一体で作るんだよね。

 

な ドームみたいな感じの。

 

さ オベーションの創立者って航空機メーカーのオーナーでしょう。

 

ま あ、そうなのか。そういえばさっきのハニカムだってそういう飛行機とか宇宙ロケットとかそういうものの技術だよ。

 

な 軽くて丈夫なという共通項はありますよね、実際カーボンは使われていますしね。

 

さ ハニカムにカーボン貼って。

 

ま スピーカーには30年前からカーボンもハニカムも使われているよ。

 

さ そういう発想から来ているのかな、オーディオ機器では。

 

ま オーディオ機器だってもともと航空機の技術を使ったという触れ込みで始まっている。航空機とか宇宙技術が最先端で、文化とか道楽は後だね。それを最初に音響の方にやってみようと思った人がいて、楽器の方がそれにちょっと遅れて始まったということかな。

スピーカーでそういうのを使ったというのは、軽くて丈夫で固有の音をもたないからいい。スピーカーの音というのはヴァイオリンの音も人の声も楽器の音も爆発音もみんな出すわけだから。固有の音はない方がいい。

そこへいくと楽器というのはやっぱり固有の音が欲しい訳でしょう。それも我々はどうしても木材に馴染んでいる訳で。ところがこれが違う種類の音楽とか違う育ち方をした人は感覚が違うから。だからエレキ・ギターに慣れている人はこういう木の音は霞んでて面白くないと思うかも知れないし。

 

さ 鉄弦から来た人はナイロンの3弦の音がよく曇る曇るという。

 

ま まあ3弦は僕たちが聴いても曇るよね(笑) ただ、3弦は3弦の使い方があってね。

 

さ そうそう、各弦バランスでなくて、それぞれの個性を。

 

ま そうなんだ。そう思うしかないんだ。

 

さ そういう音なんだよ、といった人がいます。先輩ギタリストで。

 

ま そう、だからそれを活かすんだよ。

 

な それがギター。同じ様に鳴ってどうする。

 

ま バリオスのマズルカの聴かせどころのフレーズは3弦で弾くんだよ。3弦のハイポジション、7フレット辺りで弾く。あれやっぱり3弦の音がいいんだよ。

な 森に夢見るは?

ま そうそう、バリオスとかターレガとかはギタリストなんだから、ああいう人が運指で3弦と指定してあったらその音なんだ。まあ曲によっては3弦弾いているのか1弦弾いているのか分からないような音も、出せる技術は必要だろうけど、どちらか分からないというだけの音ではやっぱりだめなんだ。

 

さ バルエコの頃から何もそこで弾かなくても全部ローポジションで弾けるじゃんっていう、あの辺りから。すべてバランスがとかそこから始まっていますね。どこを弾いても同じ様になるとかね。

 

な アルハンブラのマイナー・メジャーのところとか。

 

ま うん、あれは2弦と1弦だからいいんだよ。

 

な それを開放弦の方が簡単じゃないかっていう

 

さ ああ、そういう指摘もあるよね。

 

ま マイナーの所を1弦で始めるの? つまらんねえ。後半でキーが変わって1弦になる所でカラッと晴れるからいいんでさ。

 

さ そうですね、曇ったような、マイナーなあそこから。

 

な なんというか陽がパァーっと差す感じ。

 

さ そうそう。

 

な そういうイメージですけどね。

 

さ 過ぎ去りし日の最後のトレモロだってね、マイナーから、あそこ大好きだけど。あれだってそうですよね。そういうのってギターならではの。弦の同じ音だけど違うポジションで違った表現になるイメージが。

 

ま 弦変えるからできるっていう、そこがギターの表現の幅なんだよね。ピアノじゃ同じだものね。ピアノみたいに全部同じでやっていたら、それはそれでピアノと直に勝負を挑むようなもので負けるに決まっているよね。

 

な 切り口を変えてというかね。

 

さ カーボン弦が出たのはそういうあれもあったのかな。3弦とかね。

 

ま あ、カーボン弦はそうだな、そういえば2弦みたいな音のする3弦だね。

 

さ ナイロンの2弦より細いでしょ。だからそういう発想もあって使えたらという事で、誰かが実験したのかね、平均化する前にね。つり糸なんかあった訳だから。

 

ま 前に話したと思うけどガートネグロって弦知ってる?

 

な ガートネグロ?

 

ま 英語でいえばブラックキャットって言う意味。スペインの弦で、23弦巻き線なの。というより23弦しか見た事ない。

 

さ 白い、サバレスの巻き線みたいな…

 

ま そう、サバレスの巻き線に似てるけど、音はガートネグロの方がすごい。バリバリの音がする。フラメンコの踊りの伴奏に使ったら最高。

 

な 巻きが荒い?

 

ま 荒いというか、ジャリジャリの音がする。

 

な 爪がジャリッ、ジャリッていく感覚ですか?

 

ま ああ、それもあるかも知れない。

 

な 巻き弦弾いた時ってすごいでしょ。

 

ま すごいボリュームが出るの。だから踊りに負けない。

 

な ああ、それはもってこいですね。

 

ま でもそれでソロなんて弾けたものじゃないよ。ジャラジャラの音だから

 

(ここで温かい紅茶、アールグレイ)

 

さ 今日「な」くんと話していたのですが、今日のお題の件で、弦もそうだし糸巻きもそうだしみたいな話をしていたのです。古い糸巻きって性能いいよね。

 

な ま、性能のいいのしか残っていないのでしょうけど。

 

さ あ、確かに。でもそこからあんまり変わってないよね。

 

ま うちの42年のサントスの糸巻き、多分オリジナルで模様はフステロに似ている。同じのはほかに見たことないのだけど、フステロのような様な模様なんだけど。

 

な プレートのこのピカッと光った感じが。

 

さ 「ま」さんのサントスってシルバーでしたっけ?

 

ま いや、あれはゴールドというかブラス。で、つまみが貝で彫ってある。

 

さ ああ、そうでしたね。

 

ま で、動きは今のフステロよりよっぽどいいんだよ。フステロより倍の年数が経っているはず、それなのにまだ全然平気なんだ。あと1920年代のハウザーだって全然平気だし。

 

さ ランドスファー???

 

ま そう。ランドスファーもフステロもなくなってしまった。フステロは性能はとにかくデザインが良くてねえ…なくなったのは残念だ。

 

さ デザインいいですね、スペインの楽器、そのお国柄に合っていて。今スペインじゃみんなゴトー使っているものね。いい楽器、高級楽器には。

 

(ここで「ま」持参のカステラが出る)

当日作られたできたて、包装されたままベランダに掛けておいて冷やしました。

 

 

 

さ 子供の頃カステラって好きじゃなかったけど。

 

か これって、大人の味だよね、子供には好きな味じゃなかったかも知れない。私もあんまり好きじゃなかった。

 

 

ま 一番下の紙の敷いてあるザラメのところが好きなんだよねえ(笑)

 

か あそこが一番美味しい。作家の誰かがいっているよね、カステラとしゃけは皮のところが一番美味しいって、皮と身の間ととこが。

 

さ 僕は子供の頃あのジャリがきらいで、じゃりじゃり感がいやだった。

 

か このじゃりじゃり感も大人になって分かる感覚。

 

さ 子供の頃はそれがいやでその美味しいところを紙ごと剥いで食べていた。

 

な 僕は紙をするめの様に食べてました。神戸にはこういうじゃりじゃり系はなかった様な気がする、基本的に文明堂しか知らないですけど、じゃりじゃりではなかった。じゃりじゃり系を知ったのは大人になってからです。こんなものがあるんだって云う。

 

ま 吉田茂の息子の吉田健一が長崎にカステラ工場見学に行ったら、そこで焼きたての端っこを食べた。カステラ自体は翌日の方がしっとりして美味しいのだけど、はじっこに関しては焼きたてが美味しいと。かりかりというか、さくさくなのかな?

 

な 香ばしさもあるでしょうね。

 

ま 焼きたてのパンのミミがおいしいのと同じ。

 

な カステラは和菓子ですかね。

 

ま 起源はともかく和菓子でしょう。カステラって織田信長の頃に伝えられたのでしょう。今ではスペインとかポルトガルにあるカステラとは全然違うのだって。卵と砂糖と粉を使うのは同じだけど、向こうのカステラはこんなに厚くもなければ平べったくも作らないような。全然違うようだ。

 

さ カステラってこれだけ洋風ケーキが全盛になっても…

 

ま 僕は子供の時にケーキよりカステラの方が高いというのが不思議だったんだよね。色々上に乗っている方が安いなんてそんなバカなって。ま、子供の考えることってそのくらいのもんだ。

 

さ カステラはイスパニアの宣教師が伝えたんですよね。

 

ま そういわれているよね。

 

さ そのころ鉄砲の種子島も伝わっているし、ひょっとしてリュートとかギターとかも持ってこなかったのでしょうか。

 

ま そういえば織田信長が宣教師の一行の音楽を聴いたという話はあるよね。何の楽器だったんだろう。ギターがあってもおかしくないね。

 

さ そのころのギターといえば16世紀だから、5コース…

 

ま 5コースの10弦かなあ。

 

さ ひょっとして献上されていたかも知れない。

 

ま してみると、安土城が燃えてしまったのは残念だなあ。

 

 

おしまい