● 鈴木大介ギターエッセイ パート7
昨年暮れについにマックユーザーとなった(メディア・カームとしてはとってもウレシイ)鈴木大介さんの新春エッセイ・パート7です。原稿がメールで送られて来るのでHP管理人はとても楽になりました。大介さんのスケジュールもきめ細かく訂正・変更が出来るようになり、いつもチェックして下さいね・・・
2月になりました。僕はここ数年、「年度末リサイタルの男」と呼ばれていて、どういうわけか1月だ2月だ、確定申告だっていう時にけっこう重いプログラムでリサイタルをやっているのでした。97年の2月1日には、武満とタンスマンだけのプログラムでリサイタルをやって、その後も確かタンゴのコンサートとかがあって身体壊したのを覚えているし、98年には2月19日に王子ホールでリサイタルをして、その翌日には武満の「虹へ向かって、パルマ」を神奈川フィルと演奏、しかもその前々週には八景フィルっていうすごくみなさん熱心なアマオケでアランフェスを弾いていて、3月には横浜でバッハと武満だけっていうリサイタルがあったっけ。
それで昨年は記憶に新しいけどオペラシティがあったし、それだけでも十分たいへんだったのに1月2月で人のレコーディングに2本参加して津田ホールで歌曲のコンサートをして他にも友だちとカステルヌォーヴォ=テデスコのクインテットやったりして、今、昨年のスケジュール見ても、他人事にしか思えないというのが正直なところ。
そういった過去3年間に比べると、今年はつとめてスケジュールに余裕を持たせるようにしているので、細かいセッション系の仕事がないだけ楽なはずなのだけれど、やはり「年度末の男」だけあって、3月にはまたもやおそろしくてスケジュールに目も当てられない状況になってしまったのでした。
2月26日に行う倉敷でのリサイタルでは、ひさしぶりに武満のオリジナルの作品を暗譜でひこうかなと思っています。ここのところ武満関係のコンサートでは、香津美さんと一緒に弾いてもらうことが多かったので、しばらくぶりに昔から弾いてたエキノクスを弾いてみたりしたらどうなるんだろう、という自分でも良くわからない部分が楽しみなんですけど、もう一つ「暗譜で」って決めたのには理由があって、ぜんぜん話は飛んでしまいますが、それはジョアン・ジルベルトのCDを聴いたからなのでした。
みなさんも御存じの通り、メディア・カームでは鳩山薫先生がボサ・ノヴァ・ギター教室を開設されていて、僕は昔学生だったころから本とかで鳩山先生見てたので、お会いしたら気さくな方でちょっと緊張もほぐれたわけですが、その鳩山先生のジョアン・ジルベルトの解説をされた本のなかに、「モントルー・ライヴ」というアルバムがあるって書いてあったので、鈴木はさがして聴いてみたわけです。ボサ・ノヴァのライヴっていうと、けっこういろんな楽器が入ってるのかと思ったら、意外なことに60分以上もの間、ジョアン・ジルベルトがひたすらギター弾いて歌ってるっていう、ただそれだけなんですけど、これがめちゃめちゃしびれるのです。なんか、音楽が、沸き上がってくる、あるいはその立ち上りかたが極めて自然で、ジョアン・ジルベルトっていう天気があって、「あ、今雨降ってるな」みたいな感じで「あ、いまジョアン歌ってんな」みたいな。ギターはトニーニョ・オルタみたいに饒舌ではなく、しかしそのヴォイシングには無限のイマジネーション。しかもひとつの歌を4回ぐらいつなげてくり返して歌ってるのに、毎回微妙な変化があって、あきるどころか気がつくと部屋中ジョアン・ジルベルト。こういう世界を研究したりして、どおりで鳩山先生には普通のクラシック・ギターの先生のキャラではない粋な味があると思ったら、そういうことだったのね、と妙な納得。
で、すぐにその気になってしまう鈴木的には、自分の弾いてる武満も、いつかこうなるといいな、と思ってしまったのでした。…………遠い道のりなんだけど。
さてさて、そのように身にあまる大志を抱きつつも、やはりギタリストの日常なんてたいした変化もないわけで、ゴッホ見に行った、アイルトン・セナの本もらって読んでまたその気になった、といろいろびっくりはあっても、結局日々の悦楽は宴会にありなのでした。
で、去年の6月くらいから、一緒に仕事をしてるギタリストの西村君が西葛西にひとりで住んでて、よく宴会しに行くんですけど、西葛西の駅のすぐ近くに「梅ひさ」っていう、これはもう大介的には菊名のバー「リンドバーグ」と並んで20世紀に発見した「2大憩いの場」っていう感じなお店があるのです(今年はこれを「3大憩いの場」にするべくお店リサーチ中)。で、我々のなかには、勝手に作った「梅ひさフルコース」があります。まず、ジョッキが凍った生ビールをグビグビ飲みながら、とれとれのお刺身をぱくついて、じっくりその日の旬な料理を物色します。で、次はだいたい揚げ物に行くんですけど、時々うそみたいに身のしまった新鮮なホッケを焼いてもらったり、到着したばかりの生がきをほおばったりすることもあります。そうこうしてるうちにけっこう盛り上がって来て、筑前煮とかいわしのなめろうとかをつまみつつの日本酒タイムに突入です。いろんなお酒がありますが、大将が四国の御出身なので、すすめられるままに「船中八策」などをぺろぺろ飲んでいると、うっかり3月のスケジュールも忘れてしまいそう。しかし絶対忘れてはならないのが締めのガーリック御飯!!!これはもう幸福度でいうとおひさまのようどころか灼熱の太陽そのものなのでした。
………あ………お腹すいてきた。
そういうわけで僕はもう出かけますので、みなさんごきげんよう。
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7月17日 更新
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