● 鈴木大介ギターエッセイ パート2
お待たせしました!鈴木大介さんのエッセイ・パート2です。
今回はこの12月にリリースされたばかりの最新CD「Cheek to Cheek」の私的ライナーノートです。それぞれの曲に対する大介さんの想いとやさしさにあふれています。このHPでしかお目にかかれません!
1.Verse(Isn't This A Lovely Day)
「雨が君をここに引き止めてくれて、素敵な日になった」
2.Shall We Dance
フレッド・アステアの2枚組のCD「Starring Fred Astaire」(米コロンビア)はアステアのいわばシングル・コレクションだ。大学の時にそれらの歌の美しさやアレンジの面白さに魅了されて以来、僕の愛聴版だ。敬意を表しての‘指タップ’に挑戦。
3.'s Wonderful
映画「バリの恋人」から。この曲は結婚式をあげる大学時代の親友のためにアレンジした。彼は僕の周りでは98年サッカーワールドカップの優勝国フランスを言い当てた唯一の人物で、決勝戦の対戦国ブラジルにちなんでボサ・ノヴァ調にしてみたのだ。イタリアならカンツォーネ調、スペインならフラメンコ調、ポルトガルならファドになってしまったわけで、ほんとブラジルで良かった。末長くお幸せに。
4.Things are Looking Up
Skall We Danceと同じように、昔のオーケストラアレンジを最大限に生かした。レイ・ノーブル楽団によるその演奏では、アコースティック・ギターが心地よいバッキングを努める。ビックス・バイダーベックとフランキー・トゥルンバウアー楽団の「Singin' The Blues」もそうだが、初期のジャズを聴いていると思わずノーブルで雄弁なアコースティック・ギターに出会う。
5.No Strings
その日暮らしのギタリストにはしがらみなんてものはございません。ギター担いで会場に行って、毎日ヴァイオリニストやフルーティスト、歌手やピアニストの皆さんとめくるめく音楽三昧。夜な夜な打ち上げと称してはワインを空け、ラム酒でいい気分になったらすやすやおやすみなのです。ステディなんていりません、でもあなたとは今宵限りのアヴァンチュールを・・・なんて日は来るのだろうか???
6.Puttin' On The Ritz
僕らが中学生の頃、ドイツ国籍でインドネシア生まれのオランダ人(何なんだ、一体)のタコという歌手がいた。アステアやジーン・ケリーのナンバーをユーリズミクスみたいなアレンジで歌ってキャッシュボックスの新人賞まで獲ったがそれきりだった(後にバブル期ユーロビート華やかなりしディスコでは「Got To Be Your Lover」というヒットを出したけど )。東京国際音楽祭に招聘されて日本向けにマダム・バタフライを題材にした「サヨナラ」という曲を作ったが何を勘違いしてか完全にチャイニーズだった。でも僕らは忘れない。ありがとう、タコ。
7.Change Partners
題名を見てスワッピングの歌かと言ったのはフォンテックのデイレクターだが、恋の醍醐味はとったり盗られたりなのかもしれません。「パートナーをかえて僕と踊らない?そうしたらもう二度とパートナーをかえたくなくなると思うんだけど」なんて、言える時代に生まれたかったよな、そうでもないよな。
8.Cheek to Cheek
ジヤズギターの巨匠ジョー・バスによる「Blues for Fred」というソロ・ギターアルパムでは、4ビートの王道をいく素晴らしい演奏が繰り広げられているが、どうせ踊るなら夕日の浜辺でと思い、そんな感じのアレンジにしてみました。そういえばザルツブルグにたくさん荷物を抱えて到着した途端、ホアキン・クレルチ一家に連れられて訪れたサルサ・パーティーはすごかった。亡命キューバ人のバンドに合わせて踊る山岳民族。それで思い出したけど、アステアもお父さんはオーストリア人。
9.I Used To A Color-Blind
「君が現れてから、すべてが美しい色をしていることに気づいた。空がこんなに青く、月が黄金に輝くことを・・・」口説きっぱなしだ。新しい自分に出会えるような相手に会うと、夢中になつてしまうのね。ふと我に返ったり、こんなのほんとの自分じゃないと気づいたりすることもあるけど、出来ればこのまま夢の続きを。
10.Nice Work If You Can Get It
このアルバムの収録曲に日本語を使わなかったのは、この曲を「首尾よく行けば」にしたくなかったからだ。フレッド・アステアがそんな江戸っ子町人みたいにしゃべる筈がない。でもこのアレンジ、何だかべらんめぇ調にも聴こえて来る。スイングは下町なのだ。
11.I'm Putting All My Eggs In One Basket
英語の辞書では、「ひとつの事業にかける」とあるけど、これはラヴ・ソング。アービング・バーリンの書いた曲にはこのようにヴァースが重くてリフレイン全体がサビに聴こえてしまいそうな曲が多い。映画の中でアステアがこの曲をアップライトのピアノで弾くのだけれど、なかなか良い。‘おかず’も少し借用した。
12.Let's Call The Whole Thing Off
この曲のリズムパターンを考えるのに結構凝ったつもりだったのだけれど、僕が師と仰ぐジャズギターのマエストロW氏に3分で完コピされてしまった。師はヒマラヤの様に君臨して「まだまだ甘いよのう」と微笑みかけて下さる有り難い存在だ。さまよえる子羊はそのようにして樹海の深みに分け入り、二度と帰っては来ないのだ。アディオス。
13.A Foggy Day
霧の町ロンドン。このアルバムの収録曲の中で最も早くアレンジが決定した作品。ジャズの名曲としてはミディアム~アップ・テンポで素晴らしいプレイがたくさんある。ウィントン・マルサリスやビレリ・ラグレーンのテイクもマイ・フェバリットだ。そこで思い切ってストレートにクラシカルなアレンジにした。餅は餅屋なのだ。最後のチャイムのようなハーモニクスは原曲のアレンジから借用した。
14.Let's Face The Music And Dance
この曲が歌われる「艦隊を追って」という映画に出演している小さなサルは見物だ。サルとは思えない演技でとってもかわいいのだ。例えば、ジンジャーロジャースが他の男からもらった花束をアステアが花瓶から引き抜きそのサルに渡すと、絶妙のタイミングでそれを放り投げてしまう。その後振り向きざまにサルが帽子を脱ぐのも見逃さないで頂きたい。で、この曲のアレンジとサルとはまったく関係が無い。劇中劇でギャンブルに負け、偶然同じ場所で同時に自殺しようとした二人が出会って踊るのだけれど、それが僕のなかでハードボイルドな刹那主義に結びついたのだ。よくわからないけど。
15.Fascinating Rhythm
ロックン・ロール。それは魅惑のリズム。
16.Oh, Lady Be Good!
僕は大学時代、時折アルバイトでレストランやキャバレーにギターを弾きに行っていたのだが、ウェイトレスさんやホステスさんの中にはミュージカルや演劇をやっている人もいて、アメリカ映画の様だった。歌を歌い続けて今でもロンドンから手紙をくれるひともいるし、みんなきっと何処かで自分なりに生活しているのだ。夢を追うことも、かなえることも素敵なことだけれど、あきらめることも後で考えるとそれほど悪いことではない。夢見た世界が壊れずにすむからだ。ちなみに、その頃の僕の夢はジャズ・ギタリストになることだった。
17.They Can't Take That Away From Me
この曲のアレンジで用いたトリックの話をしよう。繰り返されるフレーズに異なる意味を持たせるために、歌詞の意味を参考にした。例えば「beams」という単語の後にはBフラット、E、Aの単音と、Eフラットのマイナーコードをハーモニクスで並べた。そういう箇所がいくつかある。
僕個人の出来事として、98年はいくつもの大きな別れがあって、僕はそのことによって思い出と一緒に生きていく方法を見つけなければならないことや、離れ離れになる前に伝えなくてはならないことがあることを知った。たくさんの出会いと別れの中で、降り積もってゆく「誰にも奪えぬこの想い」。それでも生きていることは素敵だ。この演奏は僕の父の思い出に捧げられている。
18.It Only Happens When I Dance With You
とても不思議な歌だ。恋人を口説く歌にもなれば、去っていった恋人を想う歌にもなる。その時々で意味の違う台詞だから、この曲は編曲しなかった。思い出すままに弾いてみた。
19.Isn't This A Lovely Day
そしてギタレレ。南の島の浜辺で、夕立ちに降られて立ち往生していると、いつもホテルのロビーで見かけてちょっといいなと思っていた女の子が、一緒に雨宿りしている。
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7月17日 更新
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