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● 鈴木大介ギターエッセイ パート63(2005年8月2日号)

暑いですね、ベネズエラより帰国以来、あちこちと飛び回っている大介さんです。いよいよ8月3日、新しいアルバム「カタロニア讃歌~鳥のうた/禁じられた遊び」が発売です!この夏の暑さも吹き飛ぶように熱い熱い作品に仕上がりました。メディア・カームでももちろん取り扱っております。

暑いですね~。お元気でお過ごしですか?
ベネズエラー名古屋―広島、という、濃厚な7月に続いて、8月はCD制作の仕込みに励んでおります。え? もう録音済みではないかって? ふふ~ん、次回作の、です。これがなかなかたいへんなんです。

おっと、しかしその前に、皆さんには8月3日リリースの新しいアルバム、「カタロニア讃歌~鳥のうた/禁じられた遊び」のお知らせをさせてください。鈴木大介デビュー10周年にして初のスペイン作品集です。日頃、演奏会で弾く機会が多いだけに、自分自身が今はこう思っている、という、確定した解釈が容易には提示できない作品たちなのですが、構想2年、ええいっとやってみました。
収録作品は以下の通り。

「カタロニア讃歌~鳥のうた/禁じられた遊び」

 

1. アレハンドロ・アメナバル:映画「蝶の舌」より

 アレハンドロ・アメナバルは作曲家というより映画監督ですね。昨年は「海を飛ぶ夢」が、アカデミー賞外国語映画賞を受賞して話題となりました。以前、この監督の「アザーズ」という映画を見たとき、サウンドトラックが気になってチェックしたら、なんと音楽は監督の自作だったのです。「すごい人がいるんだな~」と思いました。そういえばクリント・イーストウッド監督も自分で音楽やってましたね… 「蝶の舌」は、ホセ・ルイス・クエルダ監督の、切ないお話です。是非ご覧ください。アメナバルは音楽だけ担当しています。そこからメイン・テーマを中心にギターにアレンジしてみました。

 

2. エンリケ・グラナドス~ミゲル・リョベート編:ゴヤの美女

3. イサーク・アルベニス:カタルーニャ

4. エンリケ・グラナドス~ミゲル・リョベート編(鈴木大介改訂):スペイン舞曲第10番「悲しい舞曲」

 3曲とも大好きなのですが、聴き慣れた巨匠たちの演奏から脱却するのにはちょっと時間がかかりました。あたたかな人情が溢れていた良き時代を、少し透明な眼で描いてみました。

 

5~8.アントニオ・ホセ:ソナタ 

 これは今回、最後の最後まで収録するかどうか迷った作品です。これでもギター曲か?(失礼)とさえ思えてくる魅力的な素材たちを、首尾一貫することなくばらばらにちりばめたこの作品は、絵で言うとモネの筆致で構成がキュビズム、的な、ちょっと乱暴な例えであることは否めないがそれくらい乱暴な構成なのだからしょうがない、という作品です。だって、これ、始めは1楽章と2楽章、4楽章の3部構成だったんですって。しかも、4楽章は譜面上はほとんど1楽章のリプライズです。持つのか、私の演奏力で、持つのか??と、不安にならざるを得ないわけです。

 でも、聴いてみてください。

今回、録音して初めて、よ~くわかりました。アントニオ・ホセの生き方、考え方みたいなものが。ひとつひとつの主題を、あえてばらばらにしたままで併置していき、それでも最後にすべてがひとつの力に収束される、そこには逆らいがたい、美しさや強さへの憧れのようなものがあります。まさに、それこそ、アントニオ・ホセが生きた内戦時代への、彼の立場だったのかもしれません。ひとつひとつの素材の力と輝きを、レコーディングだからあえてそのままにして先へ進むことができました。実演だと時折、それらをひとまとめに統率してどこかへ向わなくてはいけない気がしてしまうんです。でも、このソナタが求めているのはそうではないんですね。1楽章でアレグロ・モデラートのテンポで個々に歌われ、現れ、磨かれたフレーズが、4楽章の激しいテンポの中では、はっきりと目的を持って、最後の和音へ向っていくように、緊張感を伴って聴こえてくるんです。あ~、録音してほんとうに良かった…

 

9. スペイン民謡~ニコラス・ダサ編曲:アンダ・ハレオ

10.スペイン民謡~ニコラス・ダサ編曲:4人のラバ曳き

 パリで見つけた、ゲルニカがジャケットのCD。ロドルフォ・ハルフテルが編曲指揮した、内戦時代の共和国軍の軍歌みたいなのが入ってます。上記2曲も、それぞれ替え歌として歌われています。

 

11~16.フェデリコ・モンポウ:コンポステラ組曲(自筆譜初稿版)

 闘うスペイン人がいたのと同じように、祈るスペイン人がいました。どんなに正義を振りかざしても、血の流れるところに真実はないからです。アルバムの後半は、モンポウがギターのために書いた作品がすべて入っています。

 この、昔から愛されてきた「コンポステラ組曲」、ここではベルベン社から最近になって発表された自筆譜をもとに演奏されています。タンスマンの作品についてもそうですが、セゴビアは内省的な作風に特徴のある作曲家の作品にも、聴衆を熱狂させる盛り上がりを要求したのですね。そのような理由から、このモンポウの作品にも、いろいろ手が加えられたのでしょう。自筆譜をそのまま弾いてみると、まるでサンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼のように、淡々と、でもその裏には激しい渇望によって突き動かされる想いが、静かに静かに進んでゆきます。そして、最後に、ひらけた視界にコンポステラの教会がそびえたっている、みたいな感じに書いてあります。モンポウの音楽を好きな方には、こちらの版の方が馴染みやすいかもしれないですね。

 

17~18フェデリコ・モンポウ:歌と踊り第10番(アルフォンソ10世の2つのカンティガによる)

19~20フェデリコ・モンポウ:歌と踊り第13番(「鳥のうた」)

 歌と踊り、13番は2回目の録音です。だいぶ変化しています。とくに、歌の部分の有名な「鳥のうた」を、どんな風に演奏しているか、聴いてみてくださいね。

 

21.伝承曲:ロマンス(映画「禁じられた遊び」のテーマ)

 ここまでくれば言わずもがなですが、最後はこの曲です。濱田滋郎先生曰く「禁じられた遊びがこんなに違って聴こえたことはない」とのこと。ありがたいお言葉です。でも、ご安心ください。楽譜はそのままです。

アルバムの発売を記念してイベントがあります。演奏を聴くだけでも、是非いらしてくださいね。

●8月13日(土) 15:00~

タワーレコード渋谷店 6Fイベントスペース

入場無料

当日、イベント終了後にサイン会もございます。(CDご購入者対象)

 

●9月11日(日) 15:00~

ヤマハ銀座店 イベントスペース

入場無料

当日、イベント終了後にサイン会もございます。(CDご購入者対象)

 

 

それから、9月17日 ギターエラボレーションvol.6 「瞑想」のプログラムは以下の通りに決まりました。

 

ヴァイス:ロジー伯のトンボー

バッハ:組曲イ短調BWV1008(原曲:無伴奏チェロ組曲第2番)

 

武満 徹:フォリオス

バッハ:組曲ニ短調BWV1004(原曲:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番)

ブリテン:ノクターナル

 

バッハのシャコンヌは99年オペラシティ以来6年ぶり。ブリテンはデビュー以来10年ぶりです。どうしてそんなに弾かなかったんでしょう。理由は定かではありませんが、初めての曲みたいに忘却の彼方ですので、ニューバージョンを聴いていただけること必至!是非お楽しみに。