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♦ 第35回


第34回の続き


さ 野辺さんなんかは、ほとんどこういう中出さんとか河野さんみたいに人を

使って工房的なというのは…

 

ま あまりなかったね。数人というところ。

 

さ 次の世代、星野さん世代とかからは一人で作る感じになりましたよね

 

ま それは需要と供給の関係とかかなあ。

 80年代以降になると、それ以前の中出さんとかの作ったギターが

 出回っていて、それはそれで使える訳じゃない?

 

な 中古市場というか。

 

ま 80年じゃまだ早いか。90年代位かな、中古として出てきたのは。

 

な 80年代あたりで中古というのは…

 

ま よっぽどの銘器以外は…商品になりにくいかな。

 

さ そもそも中古市場というのがあまり無かったですよね。

 

な まだ出てこない。

 

さ 個人売買のレベルでしょう。知り合いが使っているのを譲り受けるとか。

 

ま 今ではそれが山ほどあるのかな。だからか今の製作家はそれほど

 作らなくなったよね。今の人達…一月2本か3本でしょう。

 昔は5本作る人結構いたし。工房で作っていれば一か月何十本もできた

 訳だし。今では大勢抱える工房もないし。こういうのは波があって、

 将来的にはその中古市場も終わりになって、品薄になってまた新しいの

 作ってくれという時代になるのかなあ。

 

な 反動というか、大きな波で。

 

さ 今なら埋もれている楽器も相当ありそうですね。

 

ま あるだろうね。70年代の日本の楽器は結構いいレベルだよ。

 

な 30万位の楽器というのは消えていっているのではないかと思いますね。

 その価格帯というのは買ったら相当弾き込むのではないかと。

 後に残るのは思い出。

 

ま いや、必ずしもそういう人に買われるとは限らないのだよ。

 

さ 僕の上級生の女の子などはあの頃の230万の楽器を買っているわけ、

 今の学生よりも高い。だけど4年間でそのあとぴったり、そのまま凍結

 された楽器が多いです。

 

ま その凍結された楽器、押入にあるのを子供が引っぱり出して、

 これ使っていい? というのでジャンジャカやられて…多いと思うよ。

 

さ ここにきて、今の大学生くらいがようやくこれ親が使っていた楽器

 なんですと持ってきて使えるレベルの、要するに僕たちが現役で売って

 いた時代の楽器が。その前と様子が違ってきている。

 

な 前だったら、さすがにこれはちょっとね、という楽器が多かったのですが。

 

ま それは使えると思うよ。

 

さ ええ、あの時代のものはね。

 

な 実際に弾けなくなった楽器というのもたくさんあるでしょうね。

 

ま オークション見ているとね、一度昔のマヌエル・コントレラスが出た事

 があってね、売り主は何も知らない家の解体業者らしい。

 解体した中から色々なガラクタが出てきたので売れそうな物はオークションに出していて、その中の一つ。で、1000円スタートか何かでね、どんどん

 上がってどこまでだか忘れたけど、でも340万かな、それがハカランダ

 なんだよ。ハカランダなんて売り主は知らない。

 写真があって裏は濃い紫で不規則な縞があるからわかる。

 

さ ぱっと見てわかるハカランダ。

 

ま そう。質問が入っていて、何年ですか、何センチですかって、

 でも解体業者はどこのことかわからない。

 

さ どこの長さですかって。弦長ってどれ? みたいな。

 

ま そうそう。そういうえばオークションで質問の多いのは弦高なんだよね。

 

さ ほう。

 

ま でもリサイクル業者だとそもそもどこからどこまで測るかわからないし。

 

さ 当たり前だと思う事がそうではないですからね。

 

な 質問する人はすぐに使えるかどうかということを判断したいのですね。

 

ま 何でだろうね。弦高の質問多いよ。あんなのすぐ直せるのに。

 

な ある程度のネックの反りを把握したいとか。

 

さ ネックは反ってますかとか、分からないですものね。業者さんは。

 判断がね。

 

ま オークションなんてあんなの全部自己責任で落とす物と思うんだけど、

 弦高の質問多い。質問じゃなくて出品者が書く人も多いよ。

 1弦で何ミリ、6弦で何ミリ、まだ下げられますとか。

 

な それは親切ですね。

 

さ なかなかよく分かっている。

 

ま 多分そういう質問が多いからだと。まだ上げられますというのは見たことがないな(笑)

 

さ 材料の事はあまり聞かない?

 

ま 材料の事は質問もあるし、書いてもある。ま、写真みれば分かるけどね。

 

な 写真見ても分からない人が聞く事ですね。

 

ま どう見たってローズウッドなのに「ハカランダです」って書いてあるのもあるし。

 

な それは問題ですね。逆だったら面白いですね。

 

さ ああ、ラッキー。

 

(お弁当頂きつつ)

ま 最後にガリが入っているんだなあ。これが。

 

か 底にガリが入っているの??? そこまで到達してない…ないじゃん…

 

ま これ薄いプラ容器だからコンパクトだけど、厚みのあるどんぶりでしたらすごいボリュームになるね。

 

か あ、これがガリか…ふう苦しい…

 

ま すごい満腹感だね、こりゃ。

 

 

 

ま オークションでハカランダって書いてあるとすごく人が寄ってくるよ。

 楽器の素材信者っているからね。別の話で、たとえば性格判断を血液型

 で全てをはかろうという人いるじゃない。色んな信者がいて、血液型の人

 とか国籍だとか出身地、九州の女性はいいとか、そういうこという人いない? ハカランダ信者ってそういうのに似ている。

 

さ 一種のブランドですね。

 

な 転売することを考えているんですかね。ハナから売ることを考えての。

 

ま 転売ねえ…とすると車の白とかシルバー・メタリックとか買うという人と同じだね。転売の時に白は高く売れるんだって。赤とか奇抜な色は駄目で。

 

さ やっぱり最大公約数的にそういう方が売れると。売れやすいと。

 

ま だけど自分の買いたい色を我慢して白を選ぶなんておかしいよね。

 もともと白が好きな人はいいよ。ホントは真っ赤が好きなんだけど

 転売できないから白を買うなんて。

 

な ちょっと悲しい話ですね。

 

ま 昔聞いた話で、今はそんなことないけど、公務員、国家公務員上級職合格して何省に入るかを決めるのに、退職後に一番引きが多いのは何省かということで選んだ時期があったらしい。そうやって選んで入ったはいいけど、

 それから30年も経つと世の中変わって天下りもだんだんできない時代に

 なって。

 

な 子供の頃から墓石を考えているような…

 

さ 前はそういう話はなかったですね、ハカランダだからと。

 

ま いや、一部では言ってたよ。今ほどではないけど。

 

さ 楽器の良し悪しで言っていた人はいたけど、これ後で上がりますかとか、そういう風に買っていく人ってあまりいなかった様な。

 

ま そういう意味か。そういう人はいなかったね。今はいてもおかしくない。

 

な 昔はもっとピュアな感じ?

 

さ ピュアだったのか、そういう概念がなかったのか…

 

ま 大学のギター部なんかでは誰かが買うとなると詳しいのが引き連れて来て、そういうのは材料も詳しい。でも選んでもらう女の子なんて何も知らないから。で、当人が選ぶのはケースだけ(笑)

 

さ そうでしたよね。

 

ま まだ、今ほど色々ケースがなくて黒とグレーと茶色くらいしかない、

 それでも黒がいいとかね。どんな服にも合うからって

 

さ 今みたいにバリエーションもないですしね。色もそうだし。

 

(カラフルなアランフェスケースを見て)

 

 

ま これすごい色だね。パステルカラー。

 

な 春の新色。

 

ま 春の新色!(すみません、2013年春に収録しました)

 

な 去年もありましたね。

 

ま ギター持ち歩くのに季節毎にケース変えるって…?

 

か でもかわいいよね。

 

さ この辺りのリサーチはヴァイオリンの世界から先にやると。

 

ま なるほど。

 

さ で、この辺りはヴァイオリンの方で結構イケた色ということで。

 

な でもヴァイオリンのケースと面積が違います…

 

ま ヴァイオリン・ケースくらいの大きさでこういう色を抱えていても何てことないけど

 

な ギターだと小柄な人ならケースが歩いているみたいになる。

 

さ 看板しょって歩いているみたいな。

 

ま チェロだったりしたらもっと。

 

さ すごいですよね。

 

ま おじさんには無理だな(笑)

 

な 甘いお菓子の感じですね。

 

さ 学生さん達が来て。

 

な でも似合っていたりするんですよね。

 

ま 楽器を選びに来る時、知っている先輩が選んでこれにしようとか言う?

 

さ 先輩がですか?

 

ま そう、これはこれがいいとか。

 

さ 最近は…

 

な 意外と推すのかと思ったら、僕の印象では先輩はそれほど推さないのだなと。

 

ま これがいいよとかいわない?

 

な すごく控え目にいう様な気がする。僕らの頃は「お前、これにしろ」って言ったところをぐっとこらえて「もう一軒行ってみる?」 みたいな。

 

ま やっぱり草食系?

 

さ ここ10年位はそうですね。「弾くのは君だから」という感じ。

 

な 失敗パターン、そしてどんどん分からなくなっていくみたいな。

 

ま 3つも4つもあるとだんだん分からなくなるでしょ。自分が学生のころ困ったのは、二人連れてきてね、それぞれに割り振ったのだけど値段が違うんだよね、

 

さ 定価が?それとも割引率が?

 

ま 定価が違った。そしたらね、同じにしてくれっていうんだよ。

 女の子ってそういうところあるじゃない。平等主義というか。

 楽器を決めたらこちらはいくらで買うという所まではタッチしないから。

結局同じにはしなかったけどね。8000円くらい違っちゃった。

安くなった子が高くなった子に遠慮してたのかな。一緒に飲み食いに行ってみんなで割り勘にするか、個払いにするか、女の子の考え方は難しいというか…

 

さ 今はあまりそういう事はないね。最近はそういう横並びはないですね。

 

ま それがね、二人ともおとなしい子なんだよ。自己主張なんかしないたちなのに、そこを何とかしてくれと。二人まとめて連れてきたけど、これなら別々に連れてくればよかったと思った。二人来て一つの楽器というのも困るけどね。

 

さ それはあるでしょう。

 

ま それもあったな。そういう時は上手な方にいい楽器が回るようにしたいのだけど…そうなるかどうかは分からない。面白いのは高い楽器ほどいいとは限らないことだな。中出さんの20万、30万の最高級は重いばかりであんまりよくなかった。その次くらいがよく鳴る。そこへいくと河野ギターは高い方が重くはなるけれど河野らしいデラックスな音がする。

 

な そうですね、重くなったら重くなったなりのよさがあります。

 

ま ただそれが目に見えて違いが分かるのはハカランダなんだけど、表面だって違うはずなんだ。

 

さ 当然そうですよね。

 

ま 全部が少しずつ良くなって作られているはずだから。すると何によってよくなっているか分からないんだよね。ところが目にみえてわかるものだから、これはハカランダだと思われてしまう。河野は高くなると装飾も増えていって、いかにも良くなったという感じの作りなの。そういえば高くなっても見た目に変わらないのが野辺さんね。同じでしょ。

 

さ 同じですね。星野さんもです。

 

ま 何の装飾もつかないから見た目同じだもの。ただ野辺さんは高くなると一本棹で作るみたいだった。

 

さ 野辺さんは基本ドイツ式。

 

ま ランクが見た目にはっきりと分かるのはベルナベ。

 

さ 近年のベルナベですね。(もう故人になられました)

 

ま あれを逆に音の点だけでいえば、装飾が何もない方が音がいいはずだよね。表面板にしても何にしても装飾で工程が増えるという事は、それと接着面も多くなるし。一番いい材料で装飾なしで作ったらどうなったかと思うけど、誰もそういう実験はしないから分からない。ところが野辺さんがしてるわけか。表面板のいい材料といっても分からないものね。

 

さ 今井さんがよくいうのですが、ドイツの親しい材料商が自分のためにといって見立てた最高の材料で、それで作ったらよくない…と。

 

ま よくないの? 楽器屋の見立てと材料屋の見立ては違うと。

 

さ タッピングしてみて、今井さんは経験値の勘があるでしょ、見た目は素晴らしいのだけど、よく今井さんの所で触らせて頂くのですが。

 

な それカンナかけしてあります?

 

さ してあるかな。やはり見てくれだけでは違うのですね。

 

ま これ(アコースティック・ギター・マガジン増刊)に載っている、

 材料の本、これにも材料屋の話が載っていて、私ら音の事はわかりませんから、ただ外観によって選んでいると。ただ注文があって1センチの間に木目

 が何本とか、そういう指定があるとそれに則って選ぶ。

 どういう音になるかは全然分かりませんと書いてある。

 

 

な あとは、僕思うのですが、例えば10種類あったとして製作家の人が来て、好きなのを選んで下さいという事で順番をつけたらみんなバラバラだと思うのですよ。

 

 ああ。

 

ま 123位は一緒になるかも知れないね。それとその人の作り方もあるし。

 

な 構造上それにマッチングするのがあるかと。

 

ま それとこの材にはこの構造で作るとかあるだろうし。

 

な 少し微調整するところとか。

 

ま してみると、サントスに構造が何種類もあるのはそれなのかな。

 

な なるほどね。

 

ま サントスの場合、時期によって構造が違うのではなく、最初から最後まで34種類を作っていたのだから。

 

さ それは音を一緒にしようとしていたのでしょうか、自分の理想の。そこであってそれに合わせようという事で構造を変えていたのか。

 

ま それも考えられるし…反対もいえるような気もする。

同じ一点を見つめていくという考え方と、この素材だったらここまで行けそうだとか、この素材を活かすという。結果としてちょっと違うのができるかも知れない。水準としたらその方が高いのができる。

 

な 材によって方向が違うという。その様に感じますね

 

さ 材で、前は天然の物での相性とかを重視していたんでしょうけど、今はダブルトップとか構造の、作った構造で音を作っていくというのがあるでしょう。

 

な システムの音。

 

さ そう、システム。いわゆるハニカムの音とか、あれなんかは共通項があるね。

 

な ハニカムのシステムの木目が違ったらどれだけ違うのかと、あんまり変わらないと思いますけど。

 

さ 構造の音が出るから。

今なかなかいい材料がないという、この先どうなるかは分からないけど一般的にはそういわれてます。そこで別のアプローチをしてシステムにお金をかけて材にお金をかけない。システムで音が出てくると、素材の良さではなくて、素材の占める比重が少なくなっているのかなという気がします。そこには設計システムの音、システムのグレード。

 

な 伝統的に作るのだったら材がすごく、こう、ものをいうけど…

 

さ そう。材の質の影響が大きく出るでしょう。多分。ハニカムとかダブルトップだとあまり材の良し悪しでなく…

 

ま それは一面そうなんだろうけど…ちょっと異議もあるんだよ。そこにあるマヌエル・ラミレスはいい音のする楽器だと思うけど、あれは大した材ではないよ。裏はシープレスだし一番普及品だったと思う。やっぱりギターというのは出来上がった構造の音、構造というか箱の音。だから素材というのは一番目に付くからそれを問題にしがちだけど。

 

素材が一番物をいうのは料理でいえばまぐろの刺身とか(笑)。それに対し下味つけて焼いて炒めて何のソースを絡めるかというのになると素材の比重は少なくなる。楽器は刺身なんてもんじゃないから。それでも和牛とオーストラリア牛くらいの差は出るのかなあ…

 

な 単純に病気をせずに大きくなった数種の牛であったらば、濃い味付けにしたらどれも変わらないのではないかと。

 

ま チンジャオロースーだっけ、ああいう料理したら何の肉使っても大して変わらないと思う。ローストビーフとかステーキとかユッケとかいわれれば素材の味が出ると思うけど。

 

な システムというか調味料…

 

ま システムというのは調理法、調味料が変わったのだね。

 

つづく・・・