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● 鈴木大介ギターエッセイ パート11

お待たせしました。約半年ぶりの大介さんのエッセイです。と、パート10で云ったばかりなのですが・・・
何と奇跡的というか、今度は半月もしないうちに次のエッセイを頂いてしまいました。
この調子で今年はいくのでしょうか・・・皆さん、お楽しみに!!!

こんにちは。
21世紀はまめに更新しようと誓いをたてたので、時間があるときはここのエッセイを書くことに決めました。
今日は11月の末&12月のはじめに行われた香津美さんとの録音の模様を写真付きでお伝えします。

今度の2月20日に発売される、武満さんの没5年追悼アルバムの中に、香津美さんとのデュオが5曲入っています。
その内容は以下のようなものです。
そもそもこの企画は、アルバム「武満ギター作品集成」の時に繰り返しを省略せざるをえなかった「12のうた」を再録音したいとずっと思っていたことから始まっています。ただし、それだけでは一枚のアルバムには不足するので、なにかおまけをつけなければ、と思っていたところに香津美さんから録音の快諾を頂き、99年以来至る所で演奏してきた武満のアレンジを収録できることになったのでした。考えてみると、今こうして演奏家をしていられるのは、武満さんが最高のスタートラインに立たせてくれたおかげだし、香津美さんがいなければ、オペラシティの演奏会も、その後の自分の演奏スタイルも、ぜんぜん面白くないものになっていたんじゃないかと思うし、そういう意味でこの二人が僕の中では完全に相互リンクしているのです。ですから、こういう形でアルバムが実現するというのは、自分にとってほんとうに、信じがたいくらいハッピーなことなのです。

 香津美さんとのデュオは「小さな空」「3月のうた」「ホゼー・トレス」「どですかでん」「青春群像~映画『写楽』より」。「小さな空」は、99年2月20日の武満徹追悼演奏会で初演。当時、ほとんど無名に近かった僕に、1600人も収容できる東京オペラシティのタケミツ・メモリアルでリサイタルをさせてしまった関係者の方々の厚意には今でも感謝の表現のしようがないし、それに共演者として出演してくださった香津美さんの太っ腹な心意気にも敬服してしまいました。しかも、デュオとしてはほとんど初共演だったわけです。コンサートのお客さんの熱狂的な拍手もさることながら、武満眞樹さんの、「お父さんにこれを聴かせたかった」という何よりうれしいコメントが飛び出したのがこの「小さな空」。途中、演奏者の間で「たまコーナー」と呼ばれている箇所に来ると、僕はどうしても「さよなら人類」になってしまうのだけれど、シリアスなファンにはとてもそんなこと言えません。「3月のうた」は、2000年の4月に小室等さんの文京シビックホールでの公演に、ゲストとして呼んで頂いた時に初めて香津美さんとデュオで演奏した曲。もともとは友人のオーボエ奏者の古部賢一さんと演奏しようとアレンジしたのだけれど、やってるうちにどうしても香津美さんに弾いてもらいたくなってしまって、いろいろ資料をひもといたらその昔何かの映画でこの曲をピアノ・トリオでストレートなジャズにしている音源を発見し、そのコード進行を少々借用しました。
香津美さんの珠玉のインプロがたっぷり2コーラス聴けます。こういう曲では僕は横で弾いていて完全に「一香津美ファンにすぎないギター小僧がセッションできて感涙にむせぶ」状態になってしまいます。
香津美ファンだから思いつくアレンジを施せたのでは?と自負できるのが「ホゼー・トレス」。この曲は「訓練と休息の音楽」というタイトルで出版されているので、アルバムではそうなっています。途中チョッパーっぽいアドリブのところに、なかなか渋いものが光ります。「どですかでん」は、このレコーディングのためにイントロの僕のソロの部分を再アレンジ。極力サントラに近い始まりかたになったんじゃないかと思っています。昼間部で香津美さんが二人になるよ??
「青春群像」は、レコーディングが盛り上がったのでご褒美としていただいたおまけテイク。香津美さんのバッキングでインプロをしてしまったので相当近いうちに僕は袋叩きに会うでしょう。夜道には気をつけます。怖いものしらずもほどほどにね。

「12のうた」の再録の他に、今回のCDには「海へ」も入っています。たくさんの人とこの曲を演奏してきましたが、今回は僕が大学時代からデュオで演奏してきた、サイトウキネン・オーケストラのフルート奏者の岩佐和弘氏と演奏。「海へ」は名曲なので、これからもいろいろ解釈が変わっていくと思うけれど、正確さでも、思い入れでもなく、一番自分たちにとって聴き心地の良い演奏ができたと思っています。

 ところで、この録音を通して、僕は2000年の3月に完成した今井勇一さん製作のギターを使いました。
このギターは、98年くらいから今井さんにお願いしていたもので、ボディやネックが従来の今井さんのものとは少し違っていて、僕が弾きやすいようにしてあります。かなり特殊な構造ですが、最近は特に絶好調なので、すべての公演やレコーディングをそのギターで行っています。このギターが出来たから、「12のうた」の再録音をする気になったと言っても過言ではありません。
 香津美さんも実は、録音の直前に完成した今井さんのギターで何曲か弾いています。以前は、香津美さんがジェイコブソン、僕は杉のギルバートでしたが、二人とも今井さんのギターにしたので、驚くくらいブレンドが良くなりました。